まずは通常の「有体物」が介在する販売店契約や代理店契約の違いを簡単にご説明します。
販売店契約では当該商品の売買契約が「①供給元と販売店→②販売店と顧客」となり供給元と顧客は直接の契約関係にはなりません。
他方、代理店契約では当該商品の売買契約が「①供給元と顧客」となり供給元と顧客は直接の契約関係となり、代理店は契約関係には入りません。
ソフトウエア,システム開発・ライセンス・クラウドサービス利用等のITビジネスにおける販売店契約と代理店契約の区別は、基本的には上記の通常の販売店契約と代理店契約の区別と同じです。
しかし、ITビジネスでは、その目的物は「無体物」であり物が介在せず、使用許諾契約等によって相手方はその製品の使用が可能となります。
この無体物という特殊性によって、上記の区別がはっきりしない特殊な契約関係での取引が行われます。
それは以下のような契約関係となります。
まず、ベンダと販売店との関係は販売店契約を締結します。
そして、顧客は販売店から製品の使用権を購入し、販売店が顧客から製品の対価を得ます。
通常の販売店契約であれば製品は販売店から顧客に引き渡されますが、この契約ではベンダと顧客が製品の使用許諾契約等を直接結びます。
ですので、販売店の地位は法的には独立した契約主体となりますが、契約関係自体は代理店契約の形に近似していると言えます。
但し、販売店が顧客から受ける対価の支払いは、最終的には販売店からベンダへ支払われますので、為替取引に当たらないように規定する必要があります(銀行法4条1項)。
以上から、ソフトウエア,システム開発・ライセンス・クラウドサービス利用等のITビジネスにおける販売店契約と代理店契約の契約書作成や、リーガルチェックを行う場合には、ITビジネスにおける販売店契約と代理店契約の特殊性を良く理解し、そのビジネスモデルに適合するように契約条項を規定していく必要があると言えます。